JCB おとな塾

JCB おとな塾

2019.2.8

Vol.12 歌舞伎鑑賞と
バックステージ・ツアー

Dec. 9,15. 2018 From 国立劇場 大劇場(東京)
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【JCBおとな塾とは】

知的好奇心を刺激する良質なエンターテインメントをお届けする、JCB独自の企画「JCBおとな塾」。
12回目となる今回は、国立劇場の2018年12月歌舞伎公演『増補双級巴―石川五右衛門―』を鑑賞。
終演後は、つい先ほどまで公演が行われていた舞台や花道、舞台裏を歩くバックステージ・ツアーをお楽しみいただきました。

70年ぶりの「壬生村」、90年ぶりの「木屋町二階」、
50年ぶりの「五右衛門隠家」の復活上演

『増補双級巴―石川五右衛門―』は、大盗賊・石川五右衛門を題材にした複数の作品をつなぎあわせ、五右衛門の生涯を綴った物語。幕末から明治、大正、昭和初期にかけて繰り返し上演された演目で、今回は〈通し狂言〉として新たに補綴(ほてい)された台本が使用されている。初代中村吉右衛門がたびたび演じた石川五右衛門を、当代吉右衛門が継承し、「五右衛門隠家」の場は50年ぶり、「壬生村」の場は70年ぶり、「木屋町二階」の場はなんと90年ぶりの上演となる。

今回の「JCBおとな塾」に参加された方々には、受付で、公演プログラム、イヤホンガイド、そしてお土産として、隈取りをモチーフにした容器がかわいいごま昆布が配られた。座席は、入手困難と言われる花道近くに用意されている。自分の座席を探し当て、イヤホンガイドもセットして、いざ開幕。

発端の「芥川の場」では、大名の子を身ごもった奥女中が百姓・次左衛門に誤って刺され、いまわの際に赤子を生み落とすという、石川五右衛門の出生の秘密が明かされる。続く「壬生村次左衛門内の場」では、成長し盗賊となった五右衛門が次左衛門のもとを訪れ、身売りされようとしている妹を救おうとして起こる悲劇が描かれる。自身が大名の遺児であることを知った五右衛門が天下を狙う野望を抱いたところで、35分間の休憩となった。

幕間にいただく
季節の食材を使ったお弁当

参加者には、劇場2階にあるお食事処 「十八番(おはこ)」で、季節の食材を使ったお弁当をお楽しみいただいた。

客席に戻って、プログラムで二幕目の予習。しかし、イヤホンガイドがあれば予習などしなくても十分に楽しめる。役者やセリフの説明だけでなく、物語の時代背景や当時の習慣、歌舞伎の約束事、舞台で使われる道具の名称や意味、裏方さんたちの役割などを聞くことができるのだ。例えば「娘が50両の借金のかたに身売りしなければならなくなる」というシーンでは、いまのお金に換算するといくらか、という情報を教えてくれる。

事前に収録した解説を熟練のオペレーターが舞台の進行にあわせて流す方式だそうだが、そのタイミングの素晴らしさは解説者が生で喋っているのかと錯覚するほど。音声が役者さんのセリフを邪魔しないよう最大限の配慮もされており、イヤホンガイドを使うことで初心者だけでなく通の方も歌舞伎の面白さが倍増することは間違いない。

吉右衛門が魅せる
「つづら抜け」の宙乗り

二幕目「大手並木松原の場」「松並木行列の場」と三幕目「志賀都足利別館奥御殿の場」「奥庭の場」「木屋町二階の場」は、五右衛門が呉羽中納言から勅書を奪い、勅使に化けて将軍・足利義輝の屋敷に乗り込む、ユーモアあり、華やかな装置ありの場面。正体を見破られた五右衛門がつづらを背負って空中に現れ、悠然と飛び去る「つづら抜け」の宙乗りは、本作いちばんの見どころだ。なにしろ五右衛門が宙に浮いたまま大見得を切り、空中で背負ったつづらを大きく揺らしながら2階後方に消えていくのだ。この場面に意外なオチがついたところで、2回目の休憩。

大詰めは、五右衛門の連れ子・五郎市がいじらしい「五右衛門隠家の場」と、捕り手に追われた五右衛門が大立ち回りを演じる「藤の森明神捕物の場」。五右衛門を演じる吉右衛門さんの余裕の存在感もさることながら、大勢の捕り手が斬られて一斉に前方宙返り「とんぼ」を披露する場面などが、目の前で演じられるだけにその迫力に圧倒される。やがて奮闘むなしく捕らえられた五右衛門が、縄を打たれて最期の場に向かうところで、幕。サスペンスあり、スペクタクルあり、人情あり、アクションありの、大満足の舞台だった。

熱気冷めやらぬ舞台へ!
バックステージ・ツアー、スタート!

終演後は、バックステージ・ツアーへ。ガイドをしてくれるのは、劇場を隅々まで知り尽くした国立劇場職員の方々だ。まず1階の客席後方に集合し、用意されたスリッパに履き替えて、舞台下手(客席から見て左側)の花道を通って舞台上に移動する。花道のセリのあたりは「七三(しちさん)」と呼ばれ、役者はこのあたりを通るときに一度立ち止まり、見得(みえ)や印象的なしぐさを披露する。さっき見たばかりの吉右衛門さんのポーズを思わず真似してみたくなる。実際、ここで見得のポーズをとって記念撮影をする参加者の方も見受けられた。

舞台にあがると、客席から見ている以上に舞台と客席が近く感じられる。観客が舞台上の役者さんと「目があった」と感じる時は、本当に目があっている可能性もあるそうだ。舞台中央に移動し、「廻り舞台」が回りはじめると、参加者からは大きな歓声が。「意外と速い!」という声も聞かれる。廻り舞台は直径20メートルで、花道の長さ(19.5メートル)とほぼ同じ。客席から見えているのはそのうち半分ほどで、後ろ半分に次の場面の大道具を準備して回転させることで、素早い場面転換が可能になるという。

舞台上手(客席から見て右側)には、「竹本(たけもと)」と呼ばれる語り担当の太夫と三味線弾きが「義太夫節(ぎだゆうぶし)」を演奏する「床(ゆか)」がある。竹本は、情景を描写しているので、お聞き逃しなく!

さらに舞台奥には、先ほどまで使われていた大道具の藤棚が。大道具は基本的に、木、布、紙など軽くて動かしやすい素材で作られているのだとか。さらに上を見ると、天井から何本ものパイプが水平に吊り下げられている。これは背景を吊るす「バトン」と呼ばれる鉄の管で、ここには56本あるそうだ。

舞台下手、すだれのかかっている黒い部屋は「黒御簾(くろみす)」。唄、三味線、太鼓、鼓などを使って舞台の効果音を演奏する場所だ。黒御簾のなかからは、すだれごしに舞台の進行や客席が見えるようになっているが、客席からは中がまったく見えない造りになっている。そんな黒御簾の内側から外を覗くという、滅多にできない経験もできた。

黒御簾の脇から階段を降りると、花道の真下、楽屋から花道へと通じる通路に出る。花道の「七三」のあたりにある小型のセリ、「スッポン」の地下部分を見学して再び地上階へ。

階段を上がり、「鳥屋(とや)」へ。ここはこれから花道に出る役者さんが最後の準備をする場所。鏡、照明、喉のための加湿器などが用意され、床にはござが敷かれている。鳥屋と花道を仕切る「揚幕(あげまく)」には、各劇場のシンボルマーク、座紋が使われるそうだが、ここ、国立劇場では「天女」が染め抜かれている。揚幕は金輪を使って吊り下げられており、勢いよく開けると「シャッ」という小気味よい音がする。これが聞こえたら、いまから役者さんが出ますよ、という合図なのだとか。ガイドの方に「シャッ」と揚幕を引いてもらい、花道に出たところでバックステージ・ツアーは終了。花道や舞台を実際に歩き、舞台裏を覗いてその仕組みを垣間見たことで、より一層、歌舞伎を深く楽しめるようになったのではないだろうか。

このイベントについて
開催日2018年12月9日(日)・15日(土)
会場名国立劇場 大劇場(東京)
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